スマートフォンの普及率は目を見張るものがあります。
それに伴い、歩きながらスマートフォンを操作する「歩きスマホ」で交通事故に遭う人が増えてきました。
交通事故の被害者が、歩きスマホ中に交通事故に遭った場合、過失割合の認定にどのような影響が生じるのかについて解説いたします。
目次
歩きスマホに関する裁判例
歩きスマホをしていた歩行者にも過失相殺をすべきかという事案について、2014年12月26日に名古屋地裁で判決が出ました。
事件の概要としては、自転車に乗っていた加害者が、左手でスマートフォンを操作しながら歩いていた被害者と衝突したというものです。
その際自転車側は、歩道中央から車道寄りではなく、その反対側を時速10キロメートル程度で走行していました。
裁判の中で自転車側は、「歩行者も自転車の存在を認識できていたのにも関わらず、歩きスマホをしていたため、前方不注意となり、そのために本件の事故に遭ったわけである。したがって、歩行者側にもいくらかの過失が認められるべきである。」と主張しました。
これに対し裁判所は、
「歩行者は、歩道上においては最大限保護されるべき存在」と認定したうえで、
自転車側が、歩道中央から車道寄りを通行すべきところをそうしていなかった点、歩道上の自転車は、歩行者の通行を妨げないよう一時停止義務を負っているのに、それを怠った点を指摘して、歩行者の過失を認めませんでした。
この判決のポイント
この事案では、事故が歩道上で起きたということがポイントになります。裁判所もその点を重視しています。
したがって、どのような場合でも、歩行者が歩きスマホをしていて交通事故に遭っても過失は問われないと一般化することはできないでしょう。
例えば、歩行者が、横断歩道を通行中に歩きスマホをして、交通事故に巻き込まれた場合などは、歩道上ではありませんから同じ判断になるとは限りません。
また、歩行者にも安全確認義務が課せられていますので、これに違反していると認定されれば、過失があると認められてしまうでしょう。
これからの社会の流れ
歩きスマホが危険であるというアナウンスが頻繁に行われている昨今では、歩きスマホをしていて交通事故に遭った場合、全く過失なしとされるよりも、1割程度の過失が認定される方向に行くのではないかと考えられます。
ポケモンGOと歩きスマホ
歩きスマホと言えば、ポケモンGOをしていて事故に遭う人が急増しており、世界的な社会現象の一つともいえる状況になっています。
日本でも、警視庁が、ゲームをしながらの歩きスマホをしないように街頭指導する事態となっています。
歩きスマホをしていて、他の歩行者にぶつかった場合、歩きスマホをしていた方は、前方不注意であることは確実ですから、万が一、相手にケガをさせた場合は、損害賠償の責任を負います。
自転車を運転しながらのながらスマホと交通事故
自転車を運転中にスマホを操作することは、道路交通法の改正により、安全運転義務違反となりました。つまり、法律上で明確に禁止されることになりました。
これにより、自転車を運転中に、スマホをいじっていいたために歩行者との交通事故を起こした場合は、安全運転義務違反として、より厳しく責任が問われることになりました。
また、自動車と交通事故を起こした場合も、自転車側の過失がより重く認定されることになるでしょう。
このように、スマホを操作しながら公道を通行することに関しては、今後も厳しい取り扱いがされるものと考えられます。
歩きスマホは危険ですのでやめましょう
先に紹介した裁判例は、歩道上での自転車と歩行者の交通事故の事案でしたから、歩行者が交通弱者ということで保護された結果、過失はないということになりました。
しかし、歩きスマホで前をよく見ていない場合、何にぶつかるか予測できないわけです。
他の歩行者にぶつかる場合もあれば、看板や電信柱といった物にぶつかる場合もあります。また、自動車にはねられる場合もあるでしょう。
そうなると、損害賠償義務を負うことになりますし、何よりも、自動車と衝突した場合は、命の危険があります。過失割合の話よりも生命の危険の問題の方が重大であることは明白であると言えます。
したがって、歩きスマホ自体は絶対にやめましょう。